自己破産は生活に困窮し、多重債務に悩む方が最後に行き着くといってもいい手続きです。そのため、自己破産を検討している方でお金に余裕がある方はいません。裁判所に免責決定を認めてもらえれば、返済しきれなかった借金はすべて免除されることになります。しかし、自己破産を利用するには費用がかかってしまうのです。どうしても費用がかかってしまうことから、申立てそのものを諦めている方も多いのではないでしょうか。
では、自己破産したい場合、実際にどの程度の費用がかかるのでしょう?
今回は、自己破産をする際にかかる費用である「予納金」について詳しくご説明します。
自己破産の申立てにもお金がかかる
借金を返せないほどお金がなくて困っているのに、自己破産するにもお金がかかるというのは酷な話ですよね。自己破産の申立てには、収入印紙代、郵便切手代、予納金の3つの費用がかかることになります。このうち、収入印紙代と郵便切手代は合わせても数千円程度になるため、それほどの負担にはなりません。しかし、予納金については数万円から数十万円かかることもあるため、事前に準備をしておかなければ自己破産の申立てすらできません。そして予納金は、申立人の財産状況によって裁判所に決められることになっています。
「予納金」とは裁判所に払う手続き費用のこと
予納金とは、簡単に言えば裁判所に支払う手続き費用のことです。
具体的には、以下の2つの内訳の合計を予納金と呼ぶことになっています。
①官報公告費
②引継予納金
官報公告費
官報広告費とは、官報掲載にかかる手数料のことです。
自己破産は、申立てをした事実が官報へ掲載されることになります。官報とは、国が発行している新聞のようなもので、機関紙と呼ばれるものです。官報広告費は、裁判所によって金額が異なることはなく全国共通となっています。掲載費用は、後述する同時廃止事件、管財事件のどちらに分類されるかによって金額が変わってきます。
同時廃止事件:11,859円
管財事件:個人15,499円 法人14,786円
引継予納金
引継予納金とは、破産管財人に支払う報酬のことです。
自己破産は、裁判官が必要と判断した場合、破産管財人が選任されることになっています。破産管財人は、申立人の財産調査を行い、申立書どおりの財産状況なのか、他に売却できる財産はないのか、といった調査を裁判所に代わって行います。この破産管財人は裁判所の職員というわけではなく、その地域の弁護士会に登録している弁護士が担うことになっているのですが、裁判所から報酬が出るわけではありません。破産管財人への報酬は、引継予納金(管財人に引き継がれる予納金)として申立人が負担しなければならないのです。
なお、引継予納金は、全国共通の官報掲載費用とは異なって、申立人の財産状況に加え、裁判所の運用によっても大きな幅があります。一般的に、後述する少額管財事件の場合は、20~30万円程度になっている裁判所が多い傾向にあります。
「引継予納金」の金額は財産の量によって決まる
引継予納金の金額は、申立人の財産がどの程度あるかによって、裁判所が決めています。
一般的な線引きとなる、「処分する財産がない場合」、「財産はあるが少額な場合」、「十分な財産がある場合」の3つのケースに分けて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
処分する財産がない場合、引継予納金はかからない
処分する財産がない場合、手続きは「同時廃止事件」に分類され、引継予納金がかかることはありません。なぜなら、同時廃止事件では破産管財人が選任されないからです。
破産手続きの開始決定と同時に手続き廃止(終了)するため、同時廃止と呼ばれています。
自己破産は、「破産手続き」と「免責手続き」という2つの手続きで構成されています。同時廃止の場合、破産手続きは即座に終了し、免責手続きへと進んでいきます。破産管財人の業務は破産手続き中となっていますので、同時廃止事件にで引継予納金はかかりません。
財産が少額の場合、引継予納金は20万円程度かかる
処分する財産はあるものの少額である場合、手続きは「少額管財事件」に分類され、引継予納金は20万円程度かかります。事案次第で増額はありえますが、どの裁判所でも少額管財事件であれば、20~30万円程度の間で運用されるケースが多くなっています。
少額管財事件では、破産手続きの中で破産管財人が申立人の財産調査に加え、調査状況を債権者に説明する債権者集会、換価(現金化)した財産を債権者に対して配当するといった手続きが行われます。基本的な進行についても破産管財人に一任されていることから、その業務に対する報酬として、引継予納金が支払われることになっています。
財産が少額でない場合、引継予納金は50万円程度かかる
財産が少額でない場合、手続きは「管財事件(特定管財事件)」に分類され、引継予納金は50万円程度かかります。とはいえ、個人の方の自己破産申立てが管財事件に分類されることは非常に稀であるため、それほど心配する必要はありません。
一応、東京地方裁判所の基準によると、負債額に応じて引継予納金の金額決まる仕組みになっています。負債額が5000万円未満であれば50万円、5000万円~1億円未満であれば80万円といったように、高額に設定されていますが、個人の方が支払う心配はほとんどないのでご安心ください。
予納金が支払えない場合の対処法4つ
めぼしい財産がほとんどない方は、引継予納金を支払う必要がないため、申立時にかかる費用は、収入印紙代・郵便切手代・官報掲載費用と合わせて2万円弱といったところです。
しかし、めぼしい財産がある方は、少額管財事件に分類されることも視野に入れた上で、引継予納金として20~30万円程度は用意する必要があります。
予納金を支払うタイミングは、自己破産の申立てから1週間程度以内とされていますので、払えないことがないように申立て前に準備しておく必要があります。
①専門家に依頼して費用を積み立てる
自己破産を専門家に依頼して、費用の積み立てを手伝ってもらいましょう。
専門家に自己破産といった債務整理を依頼すると、いったんすべての債権者への返済がストップします。となれば、今まで返済に回していた資金に余裕ができるため、その中から無理のない範囲で予納金の積み立てを行うのが、予納金を用意する一般的な対処法です。
しかし、債務整理を利用される方はお金の管理に慣れていない方も多いため、専門家に預かってもらう形で予納金の積み立てをサポートしてもらうのも良い方法です。
いずれにせよ、自己破産の申し立ては専門家が受任してから即座にできるものではなく、数か月の準備期間が必要になってしまうため、その期間に予納金を積み立てておきましょう。
②「分納」を利用する
どうしても予納金が用意できない場合は、「分納」を利用する選択肢もあります。
分納とは、予納金を分割して納付することです。すべての裁判所で実施しているわけではないため、申立てをする裁判所に事前に確認する必要がありますが、東京地方裁判所では、最大4回までの分納を認めています。申立て前に費用の積み立てがうまく行えなかったという方は、分納が利用可能かどうか裁判所に尋ねてみると良いでしょう。
③法テラスに相談して立て替えてもらう
予納金の支払いが難しい場合は、法テラスに相談して立て替えてもらう方法もあります。
法テラスとは、国が運営している法律問題の支援センターです。法テラスでは、資力基準さえ満たしていれば専門家へ支払う費用に加え、自己破産の申立て費用も立て替えてくれるため積極的に活用してください。資力基準については地域ごとに若干異なりますが、単身者であれば月収20万円未満(東京23区内)程度で法テラスの援助を受けることができます。
法テラスは自己破産とは非常に相性が良く、専門家も利用を推奨しているため、専門家へ支払う費用、裁判所への予納金の準備が難しいと感じている方は、まずは法テラスに相談してみることからはじめてみましょう。専門家への相談も同一内容であれば3回までは無料となっているため、利用ハードルも低くなっているのでご安心ください。
④予納金のためにお金を借りることがないように
最後に注意点として、予納金のためにお金を借りることがないように注意してください。
たとえ、家族や友人であったとしても同様です。お金を借りる、ということは自己破産手続きにおいて債権者になってしまうということです。借りた相手を債権者として届け出をしないでいれば、債権者を隠匿したと裁判所側に捉えられてしまいます。免責不許可事由にも該当してしまうため、予納金のためにお金を借りるということは絶対にしないでください。
まとめ
自己破産は費用がかかってしまう手続きです。かかる金額は個々のケースによって異なるため、まずはご自身が自己破産を申し立てた場合、同時廃止事件になるのか少額管財事件になるのか検討してみましょう。もしわからない場合は、専門家への相談をおすすめします。
専門家であれば、予納金が用意できない場合でも積み立てサポートを行ってくれます。債務整理であれば相談料は無料、自己破産にかかる費用についても、分割払いに応じてくれる事務所がほとんどであるため、ぜひお気軽に相談してみてください。
また、もし資力基準を満たしているのであれば、法テラスの利用も積極的に行いましょう。法テラスであれば、専門家への費用だけでなく、自己破産の申立て費用についても一時的に立て替えてもらうことができます。法テラスへの支払いは、1か月5,000円程度で済むため、生活を圧迫することなく支払いをしていくことができます。自己破産は、申立て費用がないからと諦める必要はありません。用意する方法はいくつもあるのでご安心ください。
司法書士試験合格後、平成16年に簡裁代理権を取得し、不動産や会社の登記業務を数多く手がけてきた。また年間1000人以上の過払い金や借金問題に対峙してきた。「法律用語はなるべく使わず、詳しく、わかりやすく、ゆっくりと、ご説明する」をモットーにじっくりを耳を傾け、ご相談にいらした方々が笑顔でお帰りになる事が私たちの仕事だと考えています。