「自己破産すると連帯保証人に迷惑がかかるのではないか…?」
こうした心配や不安のため、自己破産を躊躇している方も多いのではないでしょうか?
2020年に民法が改正され、連帯保証人がこれまでより保護されるようになりました。しかし、過去の連帯保証契約にまで適用されるわけではありません。
そこで今回は、連帯保証人への影響が心配で自己破産できない方のために、自己破産すると連帯保証人にどのような影響があるのかについてと、その対応策について詳しくご説明していきます。
自己破産すると連帯保証人にも影響が出る
連帯保証契約の主債務者が自己破産すると、主債務者については借金の返済義務がなくなり、人生を再スタートさせることができます。一方で、連帯保証人は主債務者に代わってすべての債務を債権者から一括請求され、支払わなければなりません。主債務者が自己破産することで、連帯保証人には必ずといっていいほど影響が出ることになります。
そもそも連帯保証人は、主債務者と同様の返済義務を背負っているため、いつ請求されても文句は言えない立場であることに変わりはありません。とはいえ、ほとんどの方が連帯保証の契約時に、「絶対に迷惑はかけないから…」といった条件を付けて、サインをしてもらっているのではないでしょうか?しかし、債権者の立場からすればそんな条件は関係ありません。連帯保証人である以上、主債務者と同様の請求を受けても仕方がないのです。
また、主債務者が返済を継続している以上、連帯保証人に請求がいくケースはほとんどないため、責任が鈍っている方がたくさんいらっしゃるのが問題です。連帯保証人とは、それだけ重い契約であることを、まずは正しく理解してくださいね。
自己破産した場合の連帯保証人への影響は3つ
主債務者が自己破産した場合の連帯保証人への影響は主に以下の3つです。
①残債務の一括返済を求められる
②「求償権」がなくなる
③返済できない場合は自己破産することになる
①残債務の一括返済を求められる
主債務者が自己破産をすると、連帯保証人は残債務の一括請求を求められます。
そもそも連帯保証人には、以下で説明する3つの権利が奪われているため、債権者からの一括請求に応じなければならない義務が発生することになっているのです。
①催告の抗弁権
②検索の抗弁権
③分別の利益
催告の抗弁権
催告の抗弁権とは、「私ではなく主債務者に請求してください」といった主張をする権利です。この権利があれば、債権者からの一括請求を拒むことができます。
しかし、連帯保証人には催告の抗弁権が認められていないため、債権者からの一括請求には必ず応じなければならないのです。
検索の抗弁権
検索の抗弁権とは、「主債務者の財産から差し押さえしてください」といった主張をする権利です。この権利があれば、主債務者に返済の可能性がある以上、債権者からの一括請求を拒むことができます。主債務者が自己破産する場合は、検索の抗弁権についてはあまり意味がありませんが、通常はこの権利が保証人を守ってくれています。
分別の利益
分別の利益とは、保証人が複数存在する場合に、他の保証人の負担分については責任を負わないというものです。保証人が5人いて1000万円の債務があった場合、保証人1人あたりが負うべき責任は200万円です。しかし、連帯保証人には分別の利益が認められていないため、債権者はどの連帯保証人に対して1000万円の一括請求をしても良いとされています。
なお、保証人という言葉が何度か出てきましたが、保証人と連帯保証人には大きな違いがあります。保証人は上述した催告の抗弁権・検索の抗弁権を持っていますが、連帯保証人は持っていません。分別の利益についても同様です。それだけ連帯保証人が負う責任は重いものとなっています。
②「求償権」がなくなる
連帯保証人が主債務者に代わって返済を行った場合、主債務者に対して「求償権」を取得します。求償権とは、簡単に言えば代わりに支払ったお金を返済してほしいと求める権利です。
しかし、主債務者が自己破産をすると、求償権についても免責の対象になるとされているため、連帯保証人は主債務者に対して返済を求めることが一切できなくなります。
自然債務について
もし主債務者が代わって返済をおこなった場合は、ご自身の自己破産後に可能な範囲で連帯保証人に返していくこと自体は不可能ではありません。
裁判所に免責決定が認められると、申立人は借金の返済義務が免除されます。返済義務が免除されたということは、相手から請求を受けても支払う必要がないということです。しかし、「自然債務」という形で債務は残っているとも考えられていて、この自然債務を自己破産後に支払っていくことについては問題ありません。
自然債務は、「裁判上請求することはできないものの、任意で履行される分には支払いを受けた分について返還する必要ない」といった性質のものです。
もちろん、自然債務を理由に自己破産前に返済を約束する行為はすべきではありません。こんな約束をしてしまえば、「債権者平等の原則」に反することになり、免責不許可事由に該当する恐れがあります。しかし、代わって返済をしてもらった恩義として、自己破産後に可能な範囲で支払う分には問題ないのだと認識しておくと良いでしょう。
③返済できない場合は自己破産することになる
主債務者と同様、連帯保証人も返済できない場合は、自己破産をするしかありません。
一括請求については、債権者との交渉次第で分割返済にできる可能性はありますが、それを認めない債権者も中にはいますし、なにより他人の債務を何年間も支払っていくというのは簡単なことではありません。たいていの場合で、主債務者と同時に自己破産を申し立てることになります。よって、主債務者の立場にある方が自己破産を検討しているのであれば、勝手に手続きを進めるのではなく、連帯保証人に事前に通知、もしくは一緒に手続きを進めていけるよう配慮するのが理想的と言えるでしょう。
連帯保証人を守るためでもやってはいけないこと
上述した通り、連帯保証人には重い責任が付きまとっています。そこに責任を感じて、連帯保証人を少しで守りたいと感じるのは無理もありません。しかし、以下で説明することについては、いくら連帯保証人を守りたいからと言っても絶対にやってはいけません。
自己破産の際に借金を隠す
自己破産の際に、連帯保証人がいる借金を隠すことは絶対にやってはいけません。
もし、連帯保証人がついている債務を隠して手続きを終えることができれば、その他の借金についてだけ支払い義務がなくなり、連帯保証人に迷惑がかかることはありません。
しかし、意図して債権者として計上しない債務があった場合、免責不許可事由に該当することになります。免責不許可事由とは、裁判所が免責決定(借金の支払い義務がなくなる決定)の判断材料としていて、こちらに該当すると免責決定を得られなくなる危険があります。
連帯保証人がいる債務のみ一括返済する
自己破産前に、連帯保証人がいる債務のみ一括返済することは絶対にやってはいけません。
もし、連帯保証人がついている債務を一括返済することができれば、連帯保証人に迷惑がかかることはありません。しかし、特定の債権者にだけ優先して返済する行為は、「偏波弁済」といって免責不許可事由に該当する行為です。免責決定を得られなくなってしまえば、借金地獄から抜け出せなくなってしまいます。いくら連帯保証人を守りたいからと言っても、こうした行為は行わないようにしてください。
連帯保証人に先に自己破産させる
連帯保証人に先に自己破産させたとしても、根本的な解決にはなりません。連帯保証人がいなくなったとなれば、債権者は新たな連帯保証人を立てるように要求されてしまいます。そこで新たな連帯保証人を立てることになれば、まるで意味がなくなってしまいます。
自己破産をするのであれば、連帯保証人を先にさせるのではなく、自身の自己破産と一緒に申し立てるのがもっとも賢明です。裁判所に対しても、関連事件として2件同時に申し立てをすることができれば、重複する書類は1部で済みますし、手続きもスムーズに進むことになります。
連帯保証人になるべく迷惑をかけない方法
では、少しでも連帯保証人に迷惑をかけない方法はあるのでしょうか?
具体的な方法について、以下の3つを紹介していきます。
①任意整理を検討する
②事前に相談しておく
③はやめに行動する
任意整理を検討する
自己破産ではなく、任意整理に切り替えれば連帯保証人に迷惑をかけることはなくなります。任意整理では、手続きの対象を自由に選択できるため、連帯保証債務のついた借金だけを手続きから外すことができます。ご自身の返済負担を軽減しながら、連帯保証人への一括請求を回避できるメリットがあります。ただし、任意整理をするのであれば一定の資力が必要となってきます。具体的には、現在ある借金の借入元金を3~5年程度で返済できる程度の資力を求められます。
任意整理をすると、将来的にかかってくる利息や手数料をすべてカットできるため、借入元金のみの返済で完済扱いにしてもらえます。しかし、返済義務がすべてなくなる自己破産と比較すると、相応の返済能力が必要となってしまいますので、現在のご自身の収支状況で任意整理の利用ができるかどうかは、専門家に判断してもらうのが良いでしょう。
事前に相談しておく
自己破産を選択するのであれば、どうあっても連帯保証人への迷惑は避けられません。
そこで、少しでも迷惑をかけないという意味であれば、事前に相談しておくことくらいでしょうか。事前に相談しておくことで、ご自身の考えだけでなく、連帯保証人の考えも聞くことができます。自己破産以外の選択肢を模索できる可能性もありますし、なにより事前に相談することは連帯保証人に対しての最低限の礼儀であるとも言えます。
勝手に自己破産をすることがないよう、連帯保証人には必ず事前に相談しましょう。
はやめに行動する
借金というのは、時間が経過すればするほど、遅延損害金がかさんでいきます。借金額を最小限にするためにも、放置はせずにはやめに自己破産の手続きを検討しましょう。
連帯保証人が任意整理や個人再生など、自己破産以外の選択肢を取れる可能性は十分あるので、はやめに行動することで連帯保証人の負担を軽減させることができます。
どう行動していいか迷っていて迅速な行動がとれないという方は、連帯保証債務があることを伝えた上で、はやめに専門家に相談するのがおすすめです。
まとめ
自己破産すると、連帯保証人に迷惑がかかることは避けられません。それだけ連帯保証人というのは重い責任がのしかかっているのです。しかし、そのまま放置したり、言いづらいからとそのままにしていると、いつまでも解決しないばかりか、状況はより悪くなってしまう恐れがあります。連帯保証人には事前に説明をした上で、専門家にはやめに相談することが大切です。可能であれば、同じ専門家のもとに連帯保証人と共に相談へ行くのが良いでしょう。
司法書士試験合格後、平成16年に簡裁代理権を取得し、不動産や会社の登記業務を数多く手がけてきた。また年間1000人以上の過払い金や借金問題に対峙してきた。「法律用語はなるべく使わず、詳しく、わかりやすく、ゆっくりと、ご説明する」をモットーにじっくりを耳を傾け、ご相談にいらした方々が笑顔でお帰りになる事が私たちの仕事だと考えています。