債務整理には主に任意整理、自己破産、個人再生という3つの手続きがあります。
任意整理は交渉によって毎月の返済額を軽減させる手続き、自己破産は裁判所から許可をもらうことで借金の返済義務を免除してもらう手続きです。そして、個人再生は裁判所から許可をもらうことで借金を大幅に減額し、返済負担を大きく軽減させる手続きです。
それぞれの手続きには、メリット・デメリットがあり、自己破産ほどデメリットがないものの、任意整理より借金減額のメリットがあるのが個人再生です。利用条件自体もそれほど厳しいものではなく、自己破産と違って財産を失う心配もないことから、柔軟性の高い手続きになっています。
今回はそんな個人再生について深掘りして解説していきます。
個人再生は裁判所を通して債務を減らす手続き
冒頭でも触れたように、個人再生は裁判所を通して債務を減らす手続きです。
減額幅は、借金総額によっても異なりますが、おおよそ7割程度減額されるため、返済負担が一気に軽減されます。そして、7割程度減額された借金を3年間で返済していき、最長で5年まで伸長することが可能となっています。ただし、個人再生は必要書類が多岐に及ぶばかりか、裁判所や手続きの中で選任される個人再生委員との密なやり取りが求められるため、任意整理や自己破産と比較すると、少し煩雑な手続きとなっています。
なお、個人再生は事情に応じて、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」を選択することになります。返済金額だけを見れば、小規模個人再生のほうが抑えられるケースが多いですが、債権者から多数の反対意見が出てしまうと利用できないなど、いくつかの制限もあるため、どちらが適正かについては専門家に尋ねるのが良いでしょう。
個人再生の手続きには半年から1年ほどかかる
個人再生の手続きは、専門家への相談・依頼から、裁判所の許可が出るまでに半年から1年以上かかる手続きです。比較的早い段階で終了する任意整理と比較すると、どうしても時間がかかってしまう点については、理解しておく必要があります。
また、個人再生による返済計画は3年が原則となっていますので、すべての借金が完済し終わるまでには、ここからさらに3年かかってしまうことを見越しておくと良いでしょう。
では、個人再生の具体的な流れについて、以下にてご説明していきます。
STEP1:専門家へ相談・依頼
個人再生は、上述したとおり少し煩雑な手続きとなっているため、個人で行うには多大な困難が伴います。ただでさえ、借金問題に追われているというのに、手続きのために時間や手間をかけるのは賢明とは言えません。個人再生では、裁判所への提出書面の作成だけでなく、書記官や裁判官、個人再生委員とのやり取りも必須となっているため、専門知識のない方が最後まで手続きを終えるのは難しいのが現実です。
もし、個人再生を検討しているのであれば、必ず専門家へ相談・依頼をすることからはじめるようにしてください。
STEP2:裁判所への申立て準備
専門家に個人再生を依頼すると、次は裁判所への申立て準備に入ります。
準備期間には、下記のような必要書類を集めることを中心とし、裁判所に提出するための家計簿を2か月程度つけなければなりません。
【個人再生申立てに取得が必要な書類】
住民票の写し
給与明細書(2~3か月分)
源泉徴収票(2年分)
課税証明書
賃貸借契約書
同居人の給与明細書
同居人の源泉徴収票など
通帳の写し
その他、事情に応じて取得が必要な書類は増えていきます。
STEP3:申立て
裁判所への申立ては、申立人の住所によって管轄となる裁判所が決まります。どこの裁判所が管轄になるかは、専門家に尋ねるか裁判所のホームページを参考にしましょう。
https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html
そして、個人再生の申立て時には、上述した取得が必要書類の他、以下の書類を作成しなければなりません。
【個人再生申立ての際に作成する書類】
個人再生申立書
債権者一覧表
清算価値チェックシート
家計簿
財産目録など
その他、事情に応じて作成が必要になる書類は増えていきます。
なお、申立て時には手数料がかかることになっていて、収入印紙と郵便切手を裁判所に納めなければなりません。申立書に収入印紙を貼付し、連絡用の郵便切手を受付に渡します。トータルの金額は裁判所によって若干異なりますが、2~3万円程度となっています。
STEP4:選任された個人再生委員と面談
裁判所に個人再生の申立てをすると、個人再生委員が選任される場合があります。専門家による申立代理人がついている場合、個人再生委員までは選任されない裁判所もありますが、選任の有無については裁判所ごとの裁量となっているため、申し立てる管轄の裁判所に従う必要があります。個人再生委員が選任された場合は、本人面談が行われることになっていて、個人再生申立てに至った経緯などを改めて尋ねられることになっています。
STEP5:手続き開始決定
裁判所への申し立て後は、「履行テスト」と呼ばれるものがスタートします。履行テストとは、再生計画に則った返済が実際に可能かどうかをテストするものです。
申立人は毎月、再生計画案に記載された金額を自身の口座、もしくは申立代理人の口座に積み立てていかなければなりません。履行テストの実施期間は裁判所によっても異なりますが、3~6か月程度となっています。無事に履行テストを完了し、返済の見込みがあると判断されると、裁判所から個人再生の手続き開始決定が出されます。この際、積み立てた金額の一部が個人再生委員への報酬として支払われ、残りは実際の返済に充てられるプール資金となります。
STEP6:債権の調査
個人再生の手続きが開始されると、裁判所から債権者に対して手続きが開始した旨と債権届出書の提出を求める書面が発送されます。これを受けた債権者は、自身が申立て人に対して保有している債権額を記載し、裁判所へ返送します。債権届出書が出そろうと、その債権額で問題ないかどうか、申立人が判断することになります。
ここで問題がある場合は、債権の一部否認の手続きへと入り、問題がなければ最終的な債権額が決定します。
STEP7:再生計画案提出
最終的な債権額が決定した後、次は再生計画案を作成し、裁判所に提出しなければなりません。ここでは総債権額に応じて減額幅が決まっているため、金額は自動的に算出されます。
再生計画案の申立てには期限が定められていることが多く、そのほとんどは申し立てから3~4か月程度となっています。
もし、期限内に再生計画案の提出がない場合、手続きは廃止されてしまい、申立てはしてなかったことにされてしまうので注意が必要です。
STEP8:再生計画案の許可・不許可
提出された再生計画案は、個人再生の手続きが「小規模個人再生」だった場合、決議がおこなわれることになっています。「給与所得者等再生」の場合は、決議が行われることなく、再生計画案の許可・不許可の決定が出ることになっています。
再生計画案の決議が行われる場合、債権者または債権総額の過半数の反対意見が出た場合、再生手続きは廃止されてしまいます。一般の貸金業者や銀行等の金融機関の場合、反対意見を出すことは稀ですが、個人からの借入が多い方は注意が必要となっています。とはいえ、もし小規模個人再生が不認可となってしまった場合でも、給与所得者等再生であれば債権者から意見を求めることはないため、手続き自体は続行可能なのでご安心ください。
STEP9:返済開始
無事に再生計画が認可されたら、実際の返済がスタートすることになります。
返済ペースとしては、一般的には月に1度が多くなっていますが、2か月に1度、3か月に1度など、再生計画作成時に指定した返済ペースで支払っていくことになっています。
返済期間は3年が原則で、事情次第で5年となっていることと、もし返済中に事情が変わって返済が難しくなった場合も、伸長が可能となっているのでご安心ください。
個人再生の手続きであなたがやることは3つだけ!
個人再生の手続きについて見てきて、自分には難しいと感じてしまった方は多いのではないでしょうか?どうしても専門用語が頻発してしまいますし、最後まで終えるのは時間も手間もかかってしまうため、個人で行うのは簡単ではありません。しかし、専門家に依頼すれば、あなたの代わりに手続きの大部分を進めてくれるため、負担は大きく軽減されます。
専門家に依頼する場合、個人再生の手続きであなたがやることは3つだけです。
専門家への相談・依頼
まずは専門家への相談・依頼をして、債務整理の中でどの手続きが適正なのかを判断してもらいましょう。その際に、個人再生を希望している旨を伝えておけば、手続きが可能かどうかをアドバイスしてもらえます。専門家への依頼後は、債権者に対して通知がいくため、返済はすべてストップし、債権者からの請求もこなくなります。一時的とはいえ、平穏な生活を手に入れることができます。
申立て書類の作成
専門家に手続きを依頼した後は、申立てに必要な書類の取得・作成がスタートします。取得が必要な書類の大部分は専門家がサポートしてくれますし、作成が必要な書類も同様です。
ご自身で作成しなければならない書類は家計簿くらいなので、豊富な専門知識が必要といったことも一切ありません。
個人再生委員との面談
裁判所への申し立て後は、専門家が申立代理人になってくれている場合、裁判所とのやり取りや追加書類の作成など、すべてを任せることができます。ただし、個人再生委員との面談だけは出席しなければなりません。といっても、借金を作った理由などを根ほり葉ほり聞かれるわけではありませんし、申立代理人がついていれば同席してもらうこともできます。
個人再生の手続きにかかる費用は50~60万円
個人再生の手続きにかかる費用は、おおまかに50~60万円程度です。
内訳としては、裁判所へ納める予納金が2~3万円程度、専門家への依頼費用・報酬として30~40万円程度、残りは経費などの実費分となっています。
金額だけ見てしまうと高額だと感じてしまいがちですが、多くの専門家事務所では手続き開始してから返済開始になるまでの間に積み立てを行ったり、分割払いに応じてくれたりするため、心配する必要はありません。
まとめ
個人再生というのは、裁判所を介する手続きであることもあって、複雑な上に時間がどうしてもかかってしまいます。個人で行うには専門知識があまりに不足していて、最後まで終えるのは難しいのが現実です。しかし、専門家に依頼さえしてしまえば、手続きの大部分を任せることができます。費用についても積み立てを採用していたり、分割払いに応じてくれたりと、柔軟に対応してくれる専門家事務所が多いため、まずは一度相談してみるのが良いでしょう。
司法書士試験合格後、平成16年に簡裁代理権を取得し、不動産や会社の登記業務を数多く手がけてきた。また年間1000人以上の過払い金や借金問題に対峙してきた。「法律用語はなるべく使わず、詳しく、わかりやすく、ゆっくりと、ご説明する」をモットーにじっくりを耳を傾け、ご相談にいらした方々が笑顔でお帰りになる事が私たちの仕事だと考えています。