自己破産をすると、借金の返済義務がすべて免除されるのと引き替えに、財産の多くを失ってしまうことになります。しかし、すべての財産を失ってしまうわけではありません。
自己破産をしても手元に残すことが認められている財産はいくつもあるので、生活できなくなってしまうといった心配は一切ないのです。そもそも自己破産は多額の借金によって生活が困窮している方を救済するための制度です。自己破産したことをきっかけに生活ができなくなってしまっては、制度の意味がまるでなくなってしまいます。
では、自己破産をしても残せる財産にはどんなものがあるのでしょうか?今回は、自己破産しても手元に残すことが認められている財産について詳しくご説明していきます。
自己破産するとすべてを失うわけではない!
自己破産したからといって、すべての財産を失ってしまうわけではありません。
自己破産は申立て時点の財産を換価(現金化すること)して、債権者に対して配当し、それでも残った債務は免除するという手続きです。しかし、すべての財産を処分されてしまえば、破産者はまともな生活を送ることができなくなってしまいます。そのため、「自由財産」といって、この範囲内であれば手元に財産を残すことが認められています。その他、換価するに値しないと判断された財産についても手元に残すことが認められています。
換価されてしまう財産とは?
換価されてしまう財産については、各裁判所の判断に任されている側面が大きく、明確な基準といったものはありません。一方で、手元に残すことができる財産については、自由財産として破産法に明記されているため、明確な基準が存在しています。
なお、自由財産については範囲の拡張が認められていて、こちらについても各裁判所の判断に任されているため、明確な基準といったものはありません。
よって、自己破産をする際は、「どのような財産が処分されてしまうのか?」という観点ではなく、「どのような財産を手元に残せるのか?」という観点から考慮するのが大切です。
自己破産しても手元に残るもの8つ
自己破産しても手元に残せる財産は、主に以下の8つとなっています。
①99万円以下の現金
②生活に必要な家具や家電
③礼拝や祭祀に必要なもの
④仕事や業務に欠かせない道具
⑤確定拠出年金などの債権
⑥ローン完済済で時価が20万円以下の車
⑦手続き開始後に入った給与
⑧自由財産の拡張が認められた財産
①99万円以下の現金
99万円以下の現金は手元に残すことが認められています。
ただし、注意しなければならないのが、あくまでも現金であるという点です。預貯金については、そのまま手続きに入ってしまうと自由財産から除外されてしまうため、必ず事前に引き出しておいて、現金として保管しておくようにしてください。
②生活に必要な家具や家電
生活を送る上で必要になってしまう家具や家電は、手元に残すことが認められています。
こちらは民事執行法上の「差押禁止動産」に該当するため残すことが可能です。
③礼拝や祭祀に必要なもの
礼拝や祭祀に必要なもの(仏具など)は、手元に残すことが認められています。
こちらは民事執行法上の「差押禁止動産」に該当するため残すことが可能です。
④仕事や業務に欠かせない道具
仕事や業務に欠かせない道具は、手元に残すことが認められています。ただし、商品については手元に残すことができず、換価の対象となってしまうため注意しましょう。
こちらは民事執行法上の「差押禁止動産」に該当するため残すことが可能です。
⑤確定拠出年金などの債権
確定拠出年金や確定給付企業年金といった、企業年金については手元に残すことが認められています。さらには、国民年金や厚生年金、健康保険や生活保護費といった社会保障として受給する権利についても、自己破産で失うことはありません。
こちらは民事執行法上の「差押禁止債権」に該当するため残すことが可能です。
⑥ローン完済していて時価が20万円以下の車
すでにローンを完済していて、時価が20万円以下の車は手元に残すことが認められています。車だけに限らず、基本的に20万円以下の財産は換価の対象から外されます。また、価値があったとしても、処分費用が高い、手間がかかる、買い手がつかない、などの理由から破産財団(手続きの中で処分対象となる破産者の財産)から除外されることもあります。いずれも裁判官・破産管財人の判断によるため、明確な基準があるわけではありません。
⑦手続き開始後に入った給与
手続き開始後に入った給与については手元に残すことが認められています。
給与だけに限らず、手続き開始後に入った財産については、すべて「新得財産」といって。手続きから除外されることになります。たとえば、手続き開始後に両親が亡くなり相続が発生したとします。相続によって得た財産は、すべて新得財産に含まれるため、自己破産手続きの中で処分されることはありません。
⑧自由財産の拡張が認められた財産
その他、裁判所が自由財産の拡張として認めた財産についてはすべて手元に残すことが可能です。原則的には、上記の財産が自由財産の範囲となっていて、それ以外の財産についてはすべて破産財団となります。しかし、たとえ破産財団に含まれている財産であっても、裁判所が拡張を認めれば、手続き後も自由財産として保有することが可能です。
どういった財産が自由財産の拡張として認められるかについては明確な基準がありません。しかし、裁判所ごとに特徴はあるため、その地域の専門家に相談してみるのが良いでしょう。
財産を残したくてもやってはいけないこと3つ
財産を残したくてもやってはいけないことがあります。
今まで築き上げた財産を失ってしまうのはとても辛いことですよね。自己破産するにしても、なんとか手元に残したいと感じてしまうのも無理はありません。しかし、以下の3つについては、自己破産自体できなくなってしまう恐れがあるため、絶対にしてはなりません。
財産を隠したり処分すること
自己破産では、財産の隠匿行為や、不当な金額で処分することを認めていません。
こうした行為は、「免責不許可事由」といって、免責決定の可否に強く影響するため、絶対にしないようにしてください。自己破産が認められないばかりか、あまりに悪質な場合は、「詐欺破産罪」に問われる危険もあります。
財産の名義を変更すること
計画的に財産の名義を変更することも、やってはいけないことの1つです。
自己破産では、原則的に破産者名義の財産しか換価の対象にはなりません。よって、計画的に財産の名義を変更することで、処分されずに財産を残すことができてしまいます。しかし、裁判官や破産管財人の調査で簡単にバレてしまいますので、絶対にしないようにしましょう。あまりに悪質な場合は、「詐欺破産罪」に問われる危険もあります。
ローンの一括返済
ローンの一括返済については、タイミング次第で偏波弁済になってしまう危険があります。
偏波弁済とは、特定の債権者にだけ優先して返済することです。自己破産では、すべての債権者を平等に取り扱わねばならず、特定の債権者だけ優遇する行為を禁止しています。
では、いつからが偏波弁済の始期となるのでしょうか?破産法上は、支払い不能時か破産手続き申立て後としています。つまり、すでに他の債権者に対して返済ができないのをわかっていながら、特定の債権者にだけ返済してしまうと偏波弁済になるということです。たとえば、貸金業者にはもう返済できないけど、友人・知人にだけは返済を続ける、といった行為は偏波弁済になるため注意しましょう。
財産を残したい場合は他の債務整理を検討しよう
自己破産をする以上、すべての財産を手元に残すことは不可能です。どうしても財産を残したいのであれば、他の債務整理を検討しましょう。
債務整理には、自己破産の他に「任意整理」と「個人再生」があります。
任意整理
任意整理は、債権者と裁判外の交渉によって借金の返済負担を軽減させる手続きです。
具体的には、将来かかってくる利息や手数料をすべてカットし、借入元金のみを3~5年程度で返済しながら完済を目指す手続きです。返済自体は継続しなければならないため、一定の資力が必要になってしまいますが、財産はすべて手元に残すことができます。
また、自己破産と違って免責不許可事由といったものはありませんので、手続きの対象とする債権者を選択することもできます。債務整理の中でもっとも柔軟性のある手続きであるため、利用される方も最も多くなっているのが任意整理です。
個人再生
個人再生は、裁判所から認可をもらうことで借金の7~8割程度を減額してもらい、残りを3年(事情次第で5年)で返済することで完済扱いにしてもらえる手続きです。
こちらも任意整理と同様、一定の資力が必要になってしまいますが、財産はすべて手元に残すことができます。そして、任意整理にはない大幅な借金減額があるため、財産を手元に残しながら返済負担を軽減させたい方に非常に有効な手続きとなります。
住宅ローンがある方に有利な手続き
個人再生は、住宅ローンがある方にとって有利な手続きとなっています。というのも、任意整理と同様、個人再生にも免責不許可事由といったものはありませんが、債権者平等の原則は適用されるため、すべての債権者が手続きの対象となります。しかし、住宅ローンの支払いがある方については、住宅ローンの支払いだけを手続きから除外することが認められています。通常、住宅ローンを債務整理の対象とすれば、自宅は引き上げられることになります。これを回避しながら他の借金を減額できるため、住宅ローンがある方は個人再生を視野に入れるのが良いでしょう。
まとめ
自己破産をしてもすべての財産を処分されてしまうわけではありません。
自由財産の範囲内、そして拡張が認められた範囲内であれば、すべて手元に残すことが認められています。しかし、裁判所ごとに運用が異なることもあり、どういった財産なら残せるといった明確な線引きをすることはできません。どの程度の財産であれば残すことができるのか、自分の状況や希望を専門家に相談して、アドバイスをもらうのがおすすめです。
また、ご自身の目線では自己破産しかないと考えていても、専門家の目線からは他の債務整理での解決が適正である場合もあります。自己破産しないで済むのであれば、手元に多くの財産を残すことができますので、まずは専門家に相談することからはじめてみましょう。
司法書士試験合格後、平成16年に簡裁代理権を取得し、不動産や会社の登記業務を数多く手がけてきた。また年間1000人以上の過払い金や借金問題に対峙してきた。「法律用語はなるべく使わず、詳しく、わかりやすく、ゆっくりと、ご説明する」をモットーにじっくりを耳を傾け、ご相談にいらした方々が笑顔でお帰りになる事が私たちの仕事だと考えています。